「・・何のつもりだ?」
初めは、首に巻きつけた布の端をどこかに引っ掛けたのだと思った。
しかし、赤い色の先にあったのは自隊の三席の手。
首に巻いたマフラーの端をグッと引っ張ってみせる。
「。上司の首絞めて楽しいか?」
敢えて不機嫌な口調で制止するよう言ったというのに。
言葉を向けた当人は全くお構いなしという様子で、再び赤いマフラーの端をギュッと握った。
「隊長も。こういうの身につけるのですね。」
「そりゃな。寒いだろうが。」
「・・そうじゃなくて。」
手にあるものから瞳を逸らすと、ぽつりと言葉を落とす。
「色。」
―――赤い色。
「大切な方からの贈り物なのですね。」
―――そうじゃなきゃ、隊長がその色を身につけるわけない。
の白い手が離れていくのと同時に、首の辺りの違和感もゆっくりと消えていく。
くるりと背を向け、振り返った時には部下で三席のいつもの彼女に戻っていた。
「日番谷隊長。それでは、お先に失礼します。」
「・・ああ。」
戸口に向かって、二歩三歩と進む彼女の足取りは何かを迷っているようで。
何か言いたげで。
。と、呼びかけるべきか。
こちらも思案するうちに、彼女の後姿は執務室の扉に閉ざされてしまった。
日番谷君に似合うと思った通りだ、と嬉しそうに燥いだ幼馴染。
拗ねたように赤いマフラーを引っ張った、いつもは優秀な三席。
・・・深く息を吐きたいような気分だ。
「隊長、何やってるんですか?」
副官の呑気な声が高く響く。
その首元には、ごわごわとした豪華で目立つ襟巻き。
「うん?それ、可愛い部下からの贈り物ですか?しっかり首に巻いちゃって。」
良かったですね〜、などと言いながら。
近付いてくるなり、遠慮なしに首に抱きついてきやがる。
「松本。首が絞まるだろうが。」
軽く振り解いてみるが、こちらも全く怯む様子はない。
どうして次々に、この首巻きに絡んでくるのか理由が分からねえ。
「照れなくてもいいじゃないですか。」
「あのな。これは雛森が勝手に巻きつけてったものだ。」
「えっ?・・からじゃないんですか?」
急にそれまでの勢いが失せたかと思うと、今度は盛大な溜息が響いた。
「あの子。渡せなかったんですね・・。」
・・ああ。そういうことか。
溜息を吐きたいのは、やはり俺のほうだ。