「噂ほど、美人でもないじゃない!」

若い娘の甲高い声が、通りの先まで響き渡る。
十番隊舎の門前がにわかに騒がしくなり、警備の隊士だろう。こちらに駆けつける男たちの姿がの視界に映った。
参ったな、と思う。このままでは、隊首である日番谷にこの事態が伝わるのも時間の問題だろう。

向き合う形でいる、目の前の娘に視線を戻す。
淡い紅と濃い紅。紅匂のかさねの色目が、若い娘の華やかな雰囲気を一層引き立てている。
身なりの良さは、そのまま育ちの良さの保証のようだ。
門前に立ち尽くすその姿を見た時は、死神が統べるこの区域に供もつけず貴族の娘が迷い込んでしまったのだと思った。
日番谷の配下である、この付近ならば危険が及ぶことはないだろう。そうは思っても、放っておくことはできない。
不安げな表情を浮かべた、整った顔立ちの美しい娘。 は彼女に近づき、安心させるために自身の所属と名前を告げた。
――
娘の顔色が変わったのは、その直後だった。



「私。あなたに負けているなんて思わないわ!どうして、どうして・・・。」
目の前の綺麗な娘は、敵意を込めてを睨み続けている。
やはり、そういう事なのだと思う。こういうことは初めてじゃない。だから、すぐに分かった。
この娘は、想いを寄せている。今、が一番会いたい、あの人に。



ひらり、と白い衣が舞う。
見慣れた羽織、見慣れた銀色が少しだけ眩しい。
その影が不意に娘ととの間を遮り、一瞬にして、その存在が場のざわめきを仕留めた。

「莉緒殿。」

良く知る声、聞きたかった声。けれど、その声が呼んだのは知らない女の名。
「・・・日番谷様。」
震えるような娘の声。純粋で可憐な声に、先までの毅然とした態度は、もうどこにも感じられない。
改まった口調から二人の間柄を推測して、 は少しだけ心を落ち着かせる。

「私、わたし・・・あなたを諦めることなんて・・。」
――できない。顔を覆った娘の両の手の隙間からは、涙がこぼれていく。
高まった感情を隠すこともせず、震える唇でこんな風に想いを告げるだなんて。
駆け寄ったのはどちらなのか。小柄な娘の姿が日番谷の姿に重なって、紅色を白い羽織が受け止める。
おずおずと、けれど、娘の手はしっかりと日番谷の羽織を掴んだ。

入り込む余地は、もうどこにもないのだと思う。完璧な芝居の一幕みたい。
綺麗な人に告白されて、泣かれて、抱きつかれて・・・冬獅郎のことだもの。今頃、凄く慌てているはず。

その人の碧緑の瞳がこちらを振り向く。小さく息を吐いてから、その眼差しがに告げる。すまない、と。
視線を交わすだけで伝わる、二人きりの会話。
信じている。でも、それとは別問題で胸がきりきりと痛む。胸の内では、慣れ慣れしく彼に触らないで、と思っている。
娘の手を解き損ねて、そのまま彼女を許してしまう日番谷の優しさも、今はの心を逆撫でるだけ。


項垂れるようにして、娘が隊首羽織に顔を埋めたところで、はそっと視線を逸らした。
「送って差し上げて下さい。」
自分でも驚く程のぎこちない声。こんな時、恋人としての余裕を見せられたらいいのに・・。
それどころか、心を揺さぶられ、不安になる自分が情けない。

――ああ。と答えた日番谷に、娘の手はしか、と羽織を掴む手に力を込めた。







この続きは、TOPで告知している「冬獅郎+氷輪丸 夢企画」に提出させて頂く話に続きます。
企画夢がどうしても書き進まなくて・・・気づいてしまったのです。これだ!この前半部分が蛇足なんだ!と。
なので、さっぱり切り捨ててしまいます。どうも文章が重くて先に進まないのです。
(折角書いたので、切り離してサイトにアップしておきます。)
内容としては続きにあたる企画夢は、もう少し読みやすく書くつもりなので雰囲気が変わってしまうかもしれません。
それにしても、企画の趣旨は二人に愛されるヒロイン・・なのに、かなり遠いところからスタートきってますね。
進まないはずです。続きは、ラブ度高めで愛されるヒロインにしてあげたいと思います。

企画への提出が遅れに遅れていまして、本当に申し訳ないです。こんな回り道してました・・・。