白くて小さなの指に、重く光る銀の輪を見た時
世界が、時間が、止まるような感覚にゆっくりと目を閉じた。
消せない残像は闇の中でも光る。
初めから俺のものでもなかったはずだ。覚悟もしていた・・はずだった。
は何も変わらない。
華奢な指をキラキラ光らせて笑う度に俺がどんな気持ちでいるかなんて、
あいつは少しも気付いちゃいない。
俺はを避けるようになった。
桜の木の下で、自分の指に納まった指輪を飽きることなく眺める姿が見たいわけじゃない。
「日番谷隊長は冷たくなった。」と、あいつは寂しそうに瞳を伏せたけれど。
そうでもしねえと。
――いつか。俺は、その手を捕らえてしまう。
光がほどける、その時に。【前編】
五番隊からの書類に混ざっていた紙切れを掴み、
本当に勝手な奴だ。と息を吐いてから、苦情の証拠品を懐にしまうと俺は執務室を後にした。
「五番隊の桜の木の下で待ち合わせ。本日18時。
できるだけ早く来てね。 雛森 桃 」
今から出向けば、時間には間に合うだろう。遅れたところで咎められるような覚えはないが、
この時間になると外はまだ冷え込むことを考えると自然に足早になる。
「五番隊の桜の木。」その文字を見た時、脳裏を過ぎったのは、やはりの姿だった。
最近は、さすがにそこに行く回数は減った。忙しいという尤もな理由をつけてはいたが、
松本には「隊長はこんなにも分かり易いのに。天然も困ったものですね。」とからかうでもなく
同情するでもなく呟かれた。
遠くに、まだ蕾のままの桜の木が見えてきた頃、その真下に雛森の姿はなく
急に人を呼び出しておきながら遅刻かよ。と心の中で呆れていると、木の裏側に隠れるようにして
俯いて座る人影があった。抱え込んだ膝に顔を埋めて、緩い風に吹かれた長い髪がサラサラと揺れている。
雛森、ではない。この後ろ姿はよく知っている。
、か。
何となく、これは雛森のいつものお節介だという予感はあった。
それでも放っておくこともできず、ゆっくりと近づくと少し離れての隣に腰かけた。
俺の気配に気づいたのか、の肩が驚きで揺れる。
「また、泣いてるのか。」
膝に顔を埋めて無言のまま、は首を横に振る。
「だったら、顔上げてみろよ。」
そう言うと、今度は抵抗するかのように更に奥深くに顔を埋めた。
こんなやりとりは、随分久し振りのような気がする。
執務室に残してきた書類達が気に掛かったが、今日は久し振りついでに
このままの気が済むまで付き合ってやろうと腹を決めると、
俺はそこに寝転がって暮れていく空と桜の木を眺めた。